ミュージシャンの為の確定申告【税理士ベーシストに聞いた税務や補助金等の注意点】
音楽家の視点になれる税理士先生にインタビュー
音楽家や作曲家の確定申告や補助金等の注意点を中心に、ベーシストで税理士の秋山晃太朗氏(秋山晃太朗 税理士事務所)に質問のお時間を頂きました。
ご本人はベーシストとしての顔もあり、ミュージシャンや音楽家の機材やワークスタイルについても理解があり、私自身や周りのミュージシャンにとってもありがたい存在となっています。
ご実家が漬物屋さんの3代目というだけあって、事業や税務に関しては若いうちから触れてきたのか?冷静かつ客観的に受け答えする姿は、普段のベーシストとしては見れない秋山氏を垣間見る事ができました。
インタビュー/記事作成:森谷貴晴(Next Lead Music)
税理士ベーシストの歴史
まず税務や税理士業務についてお聞きする前に、秋山さんの音楽のご経験について、お話をお伺いしたいと思います。
森谷:音楽を始めたきっかけは何ですか?
秋山氏(以下:秋山):高校の部活です。あと高校の時にいとこの家に週に1度通っていたのですが、家にベースがあって、「弾いてみたら?」と言われたのも、きっかけの1つですね。
森谷:その後に大学に通われたのですか?
秋山:はい。立教大学の経営学部に入学しました。
森谷:という事は大学でも軽音サークルに?
秋山:そうですね。そのままベースを弾き続けました!
森谷:秋山さんのベースは何度か見た事があるのですが、どちらのベースですか?
秋山:フジゲンのベースです。
森谷:大学の頃はバンドや演奏活動に励んでいたように伺えますが、学業もおろそかにできないのではなかったかと思います。何かやり残した事や「あれやっとけばよかった!」みたいのありますか?
秋山:ピックアップするとキリがないですが、ライブハウスやバーに行って、セッションにもっと参加しておけばよかったなと感じる事はありますね。若者にアドバイスするとしたら、自由に使える時間を是非有効活用してほしいです。
森谷:本当は音楽を続けたかったのかなと思いますが、何故税理士の道に進まれたのですか?
秋山:音楽と一緒に平行して続けられそうだなと思ったからです。あとは就活をしたくなかったからですね(笑)音楽やってる人ってモラトリアムな思考の人が多いと思うのですが、私もその1人かもしれません。あと周りの友人が、大学2年くらいから就活の準備を始めてましたが、私の場合はそのアクションとして税理士試験の勉強を始め、そのまま税理士になりました。(笑)
森谷:ストレートで合格したのですか?優秀ですね!
秋山:実家で事業営んでまして、いずれ継ぐ事になる事になるかなと考えた際に、税理士業は色々な業種の社長さんとお会いすることができるので、社会勉強にもなるかなと(笑)
確定申告
一般的には学校教育で深く学ぶ事の少ない確定申告。自営業やフリーランスの方は、春先に向けて嫌な事務作業が待っているのではないでしょうか?会社勤めの方は、会社が税務をやってくれている関係で、あまり実感が湧かないかもしれません。
森谷:ではそろそろ本題です。まず率直に確定申告って何なんですか?
秋山:憲法で国民は納税が義務付けられているので、その納める税額を計算して税務署に申告するのが「確定申告」です。確定申告にも種類があって、大きく分けて「個人」と「法人」で分かれます。ざっくり下記のようにお考えください。
個人の場合
- 所得税:収入金額から経費を引いた金額(以下、「所得」という)に対してかかる税
- 消費税:商品販売やサービス提供といった取引にかかる税
- 相続税:財産を相続した際、その取得した財産にかかる税
法人の場合
- 法人税:会社の所得に対してかかる税
- 消費税:商品販売やサービス提供といった取引にかかる税
その他に個人・法人いずれも地方税として住民税、事業税、固定資産税といった税金があります。今回は確定申告についてなので詳しくはまたの機会に…
森谷:法人税は法人所得税というようなイメージで良いですか?
秋山:そんなところです!
森谷:共通して出てくる「消費税」ですが、確定申告でミュージシャンやクリエイターに直接的に大きく関わるように感じるのは「所得税」なのかと思います。税金を取られてしまう!というように敏感になってしまうのですが、何か傾向とかありますか?身近ではないかもしれませんが「相続税」に関わる方もいらっしゃるかもしれません。
秋山:そうですね、不安になったら私の方まで連絡して頂ければよいかと思いますが(笑)
多くの方は確定申告というと所得税が関係してきます。フリーランスの方であれば、事業所得や雑所得の申告になりますね。あとサラリーマンの方でも多額の医療費を払ったので医療費控除を受けるとか、家を買ったときに住宅ローン控除を受ける方も所得税の確定申告が必要になります。
給与所得ではないミュージシャンやクリエイターの「所得税」に関しては、源泉所得税が引かれているギャランティの支払いを受けていて、【源泉所得税で引かれた額】>【実際に納付する額】であれば追加で課税されません。そうすると確定申告しなくてもいいじゃんという方もいるかもしれませんが、源泉所得税が多く引かれている場合は還付申告が可能ですので、申告しないと損ですね…。
ちなみに税務署は納税額が少ない場合は督促や税務調査を通して不足税額を徴収しようとしますが、還付が受けられる場合、つまり納税者に有利になる場合は何も言ってくれません…
消費税も、フリーランスの方に関係してくるところで、ちょっと稼ぎ出したころに課税されるようになります。基準としては、ざっくりですが2事業年度前の収入金額が1,000万円超となると課税対象となります。例えば、2018年中に音楽活動で1,000万円超稼いだ方は2020年は消費税を計算して納める必要があります。
相続税は親族がなくなり一定金額以上の財産を相続した場合に関係してくるので対象となる人も限られてくるかと思います。ただ、最近の傾向としては課税される条件を緩めたり、課税対象となる財産金額の基準を落としてきているので、課税対象となる方が増えてきています。資産家のご親族がいるかたは気に留めておくとよいかと思います。
森谷:所得税で勘違いしやすいのが、収入に対してかかるのでは無く、所得(収入から経費を引いた金額)に対して課税されるかと思います。このような認識で良いでしょうか?
秋山:そうですね。会社員の場合、所得を出すプロセスは異なりますが、フリーランスも会社勤めの方も実は皆同じような事をやっています。自身でやるか会社がやるのかの違いですね。
経費について
森谷:ミュージシャンやクリエイターの経費についてもお聞きします。そもそもどこまでが経費ですか?例を挙げますので、ご回答ください。
森谷:まず、ギターや曲作りに使うソフトウェア買う。
秋山:それはなりますね。
森谷:では、飲み会はいかがでしょうか?
秋山:誰とやったかになりますが、概ねOKです。
森谷:接待や交際費についてですが、どのようなくくりがあるのですか?
秋山:個人についてはあまり縛りはなく、事業をしていくうえでプラスになるという根拠付けができればOKです。
森谷:では、自宅家賃はいかがでしょうか?
秋山:按分計算が必要ですが、基本的に経費対象です。
森谷:例えば私は作業部屋が1部屋ありますが、居間でノートパソコンを開いて作業する事も正直多いです。トイレでメロディーを考えている事もあります。こちらはいかがでしょうか?
秋山:考え方としては作業部屋として使用してる部屋の面積割合や、自宅で作業してる時間を基準に考えてみるのが良いです。寝てる時以外全て仕事の事を考え作業してるというような仕事一筋の方は、最大家賃の7割くらいは経費対象と考えても問題ないと思います。
森谷:次は携帯です。例えば私は携帯を2台所有してます。1つはスクールの電話受け用の携帯、もう1つはプライベート用。ただプライベート用も講師や取引先と連絡をとったりします。
秋山:スクール用は完全に10割経費です。プライベート用は通話時間等を割り出してというのが本来必要ですが、厳密にやるのは手間がかかってしまいますから、こちらも自宅の家賃と同じ割合で経費申請して頂くのが良いのではないでしょうか?
減価償却について
以前からピンとこなかった減価償却….年数で割る?といった認識だけが残っていたのですが、これを機に秋山さんに質問をしてみました。
森谷:そもそも減価償却って?
秋山:例えば楽器等の場合、ビンテージもあるので一概に言えないのですが、税務会計では、物は時の経過により価値が減少していくという考え方になっていますので、1年で全て経費としてすべき物ではないです。ギターの弦とかシールドとかであれば、金額も小さく、すぐ壊れたりする事もあるので、減価償却する必要はないですね。税務会計の基準として、10万円以上の物は「年に応じて経費処理しましょう」という話になります。楽器や機材によっては基準が決められているので、それに合わせて計上していきます。白色申告の場合は10万円未満、青色申告の場合は30万円未満までは一気に経費処理が可能です。
森谷:白色か青色によって異なるかもしれませんが、基本的に我々が購入する機材は減価償却という事ですね。
秋山:プロの方だと10万円あるいは30万円以上の購入は普通ですからね…。レアケースかもしれませんが、この先赤字が決まっている方や融資を受けたいので黒字で着地させたいといった方は、一気に経費計上できる場合でも、減価償却で毎年一定金額の経費計上にしたいという方もいらっしゃいます。
森谷:成る程。事業者からしたら、経費を毎年安定させるイメージでしょうか?状況で使い分けてるといった所もありそうですね。
秋山:そういった感じですね。迷った場合は無闇に経費計上せず、処理方法を1度ご相談頂いた方が安心できると思います。
申請時に考えられる補助金等の注意点
森谷:近年、補助金等の申請をしてるミュージシャンやクリエイターは多いと思いますが、確定申告をする際の注意点等ございましたら、教えてください。
秋山:補助金は基本的に事業に対しての補助だと思いますので、こちらは事業所得の計算に含まれるとお考えください。補助金申請時に補助を受ける経費一覧を提出する場合もあったかと思うのですが、経費に対して補助されたお金は収入として事業所得の計算に含みます。
森谷:今年は給付金が目立ちましたが、こちらも事業所得ですか?
秋山:経産省の持続化給付金や家賃支援給付金は事業所得の計算に含みますが、地区町村単位で支給された一律10万円の「特別定額給付金」は非課税です。あとそちらとは別に、都道府県や地区町村単位で行なっている事業者向けの給付金・協力金は事業所得の計算に含みます。
何かと議題にあがる「法人成り」
森谷:少し脱線しますが、よく「法人成り」という話があがりますが、法人成りする際は主にどういった時でしょうか?
秋山:大きく分けて2パターンありまして、1つが信用を得たい時、もう1つが節税です。
森谷:たしかに法人でないと取引ができないケースもあると思いますし、融資等も含めて設立する必要があれば、検討が視野に入るのかなと思います。
秋山:はい、上場企業だったりすると個人というだけで門前払いだったりすることもあるので。融資についても法人の方がより有利な条件で受けられることもあります。節税という点では、個人と法人との税率の違いがポイントになります。所得税だと最高で45%の税率が課されさらに地方税も含めると60%近い税率となります。法人税だと地方税入れてもトータルで30%程度の税率で収まります。法人成りした場合、個人の取り分は給与として必要なだけにして所得税を抑えて、経費は法人が負担、残りは会社にためておくというのが一般的なパターンですね。各々様々な事情があると思いますので一概に言えないですが、事業所得が600万円を超えてくるようになったら法人成りを検討してもよいのかなと思います。
ただし、なんでもかんでも法人にすればいいと言うわけではありません。
フリーランスでは生じないコストというのも発生してしまいますので注意が必要ですね。まず、法人の設立や閉鎖をするにもお金はかかります。設立後も、「会社維持費」といった感覚になりますが、赤字でも納めなければならない税金が発生したり健康保険料や厚生年金保険料の負担も相当増えます。
税務、労務、法務面の書類作成業務も増えますので、管理コストはフリーランスよりもかかってしまいます。一度設立するとなかなか後戻りできないことなので、税理士に相談してきちんとシミュレーションしてみることをお勧めします。
まとめ
確定申告を検討されている方は、以前から事業を行なってきた方や、事業が軌道に乗ってきたり、一定以上の収入がある方かと思います。
ここ最近は補助金や給付金等に関わる方は多かったと思うので、今一度確認して頂き、スムーズに確定申告ができると良いですね。
東京都出身。23歳で作曲家、28歳で作詞家デビュー。アニメやTV番組、パチンコ等の音楽制作をはじめ、メジャーアーティストの音響やサウンドエンジニアも担当。2017年4月にオンライン専門の「Next Lead Music School」を設立し、音楽の専門学校を超えるサービスを目標に運営中。東京都から栃木県へ移住し行政の委託事業も遂行。日本のマーケターになりたい。